7月8日、高等部2、3年の「コリア近現代史」では合同の特別授業として、韓国・弘益大学助教授の金雄基先生を招いて、「未来の有権者へ-グローバルコリアンネットワークという観点からの韓国国政参政権」という題で講演を聞きました。
金先生は、東京生まれの在日3世で、ずっと日本の学校に通ったので、大学を卒業して韓国に留学するまでコリア語をまったくできなかったと言います。
韓国に行って驚いたことは、自分も韓国について何も知らなかったけれど、韓国人も在日コリアンについて知らない人がほとんどだったということです。
また中には在米コリアンなどの移民者に対して強い反感を示す者もおり、それは在日コリアンに対しても例外ではないことがわかったこと。
一方、在日社会も3世、4世の時代になっており、在日の歴史性を語るだけではもはや本国とつながることはできないことを実感されたとのことです。
「そこにはやはり戦後、長い断絶の歴史があったのです。本国に故郷をもつ1世の具体的な祖国理解とは違って、日本で生まれ育った2世以降は本国といっても観念的な理解にすぎません。
軍部独裁時代には怖い国というイメージもありました。
私自身も92年、留学で初めて韓国に行った時、つかまりはしないかびくびくしていましたので。
韓国政府も在日政策を持たなかった。
在日も利害関係が希薄になっていき、民族教育も受けられない中、本国リテラシーを欠いていきました。
去年、初めて本国の国政参政権を行使する機会がありましたが、本国理解や利害関係が乏しい中、何のための参政権なのかピンと来ない人が多いわけです。」
「ただ、在外国民の本国参政権は、兵庫の故李健雨さんが韓国の憲法裁判所に提訴して勝ち取ったものです。恩恵として与えられたものではなく、在日として初めて本国に対して権利主張を行い、勝ち取ったのです。
在米コリアンは二重国籍を認めよと要求し、これも認められました。在日は日本政府に対してはいろいろな権利主張をしてきましたが、韓国に対しては何もしてこなかった。何もしてくれない国という認識があったからです。
でも、民主化以後、韓国は変わりました。合理的な根拠をもって権利主張をすればそれが通る国だということです。在日コリアンも本国への認識を変えなければなりません。すでにパラダイムシフトが起こっていることを自覚すべきです。」
「また、日本での地方参政権を求めるのなら、今ある自国の参政権を行使すべきです。韓国の参政権を得たことによって、在日コリアンは韓国でのあり方や主張を日本で問われる存在となりました。母国では沈黙、日本では雄弁というのはもはや矛盾と見なされます。」
「みなさんは私より10年も先に、コリアについて学んでいます。本国は在日コリアンにとって新たなチャンスの地です。主張すれば動く国なのです。なぜなら、みなさんも堂々たる権利主体だからです。」
参政権は基本的人権の中核的要素です。そのため、在日社会は日本の地方参政権を求めてきました。
税金を払っているからではなく、生まれ育った故郷です。その社会の一員である以上、地方参政権は当然の権利、かつ責任とも言うことができます。
ただし、社会にはそれぞれ独自の歴史や文化というものもあり、在日外国人の地方参政権はまだ実現していません。
そこへ舞い込んだのが本国の国政参政権です。
「今さら感」がぬぐえない人も多い中、在日の新しい世代は本国との新しい関係を作っていくことになるでしょう。
その際は、権利主体であると同時に、責任ある一員として、当然ながら、本国社会への貢献も求められることを自覚していかなければならないでしょう。