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学園長挨拶

私は異邦人
境界とは仕切りであり区切りであり
思いひとつ託せない
議会とは無縁の異邦人
私は居ながらにして
越境人だった
先々代の親たちが出稼ぎで徴用で
やむなく越えた国だったからだ
おかげで私は
持って生まれた国際人だ
さりとて気ままなボヘミアンではない
在日を生きる朝鮮人だ
苦労もひもじさも
学ぶための学校さえも
越えねばならない関だった
こらえて耐えた親たちの
今をつないだ日々だった
今にして思うのだ
世紀を越えて暮らしていても
そこで立ちはだかる壁であったと
境界のその入り組んだはざまで
私たちはまさしく代を継いで生きてきたのだと
余りにも長い月日が経ち
分断の痛みも角質と化した
対立も不信も憎しみも
そこで根付いた心の壁だ
統一などと ひと口でいうな
あまたの壁が境界を成して連なっている
己が己を越えていかないかぎり
通じる言葉は生まれてこない
越えるとは
新しい視野が開けることだ
知ることこそ力だと
真に学ぶことに目覚めていくことだ

学園長 金時鐘
• 略歴
朝鮮釜山生まれ、詩人・作家
• 受賞歴
1986年『「在日」のはざまで』で第40回毎日出版文化賞。
1992年『原野の詩』で第25回小熊秀雄賞特別賞。
2011年『失くした季節』で第41回高見順賞。
2015年『朝鮮と日本に生きる−−済州島から猪飼野へ』で大佛次郎賞。